150 1/2 タワー 2006/10/06(金) 21:07:58 ID:utvY2LIv0
 暫く歩いていると、目の前に明かりが開けた。
 このタワーの中には私しかいないのだろうか。
 この膨大なまでに広がったタワーの世界をただ彷徨い続けている。
 無機質な冷たい鉄の壁が、私をタワーからは出してくれない。
 どんなに壊そうとしても、鈍い音がただ虚しく辺りに響くだけ。
 私は、このタワーの階段を上がり、上部へ向かっているらしい。
 いや、正確にはこのタワーから脱出しようとしているのか。
 そもそも、何で私はこの中にいるのか。記憶がない。
 そして、今、下った方が出口に近いのか、それとも、上がったほうが出口に近づくのか
 それすらもわからない。
 私の精神が崩壊していくのが早いか、出口を見つけるのが早いのか、
 私はただ出口を求めて歩いていた。



151 2/2 タワー 2006/10/06(金) 21:09:06 ID:utvY2LIv0
「誰か、いませんか?」私の声が寂しく響く。
「ダレカ、イルノカァ?」前方から男の声が聞こえてきた。
「何処ですか? 何処に居るのですか?」
「ドコニイル? ドコニイルンダァ?」男の声が返ってきた。
 私は声のする方へ足を速めた。
 私は安堵した。私以外にもこのタワーの中に人がいる。
「す、すいませーん。聞こえますか!」私の声に男の声が続く。
「ス、スイマセェン。キコエルノカ!」
 先ほどから違和感を感じる……。深く考えてはいけない。
「私は、ここにいます!」
「オレハ、ココニイルヨ!」
 駄目。声のするほうへ向かっては駄目。私は踵を返し、元来た道へ引き返した。
 カッカッカッカッ……。私の足音が響きわたる。
 カッカッカッカッ……。私の足音だけではない。私の後ろからも音がする。
「いやー! 来ないで、来ないで!」
「イヤ~! コナイデェ、コナイデェ!」
 息が切れ、私の脚が止まった。同時に、足音も止んだ。
 ゼェゼェ……。ゼェゼェ……。
 二人の呼吸しか聞こえない。
「もう駄目……」
「アァ、ダメヨォ」男が愉しそうな笑みを浮かべた――

 ――白い壁に囲まれ、優しい日が射す部屋。まるで僕は、ベッドの上の白雪姫が眠りから覚めるのを待っているようだ。
 僕は自分を呪った。僕のせいだ。彼女が寝たきりになってしまったのも全て。
 僕と彼女を乗せた車は、カーブを曲がりきれずに崖から落ちた。
 何故、僕だけ……。彼女には何も罪はないはずだ! 神様。何故僕だけを取り残すのですか……。
 僕の気持ちが伝わったのか、彼女がゆっくりと眼を開けた。あぁ、神様……。

「ヤットデラレタヨォ」

 僕の知っている彼女は、もう居ない。