746 名前: 本当にあった怖い名無し 2006/08/07(月) 17:15:22 ID:aDJXcab70
ぞっとする程いい人の話

物心のついたときにAはすでにいじめられていました。
Aはいつもにこにこしているのに、どうしてだろうと親戚は首をかしげていましたが、
医者も両親も驚くほど、Aはいつもにこにこしているのです、というよりも
笑顔しか表情がない のです

小学生になり、Aはやはりいじめられていました。
Aはかえるの死骸を食べさせられても笑っていました。
トイレに放課後まで閉じ込められても、やはり笑っていました。
突き飛ばされ怪談から転げ落ち、顔の真ん中が裂けて9針も縫う大怪我を負っても
やはりAは笑っているのでした。
気味が悪い、と、Aは今度は無視されるようになりました。
それでもAは笑っていました。

中学時代、Aは父親の転勤で引っ越しましたが、その土地でもやはり
いじめられました。
上履きに画鋲を入れられ、落書きされ、机にボンドを塗られ、自転車に泥を塗られ、
体育のサッカーの時には腹に蹴りを入れられ、掃除の時間にはバケツの水を
頭から被せられ…およそ全てのいじめを体験したといってもいいくらいでした。
担任は見るに見かねてAといじめに関わっている全員を指導室に呼び、
一同にAにたいして謝らせましたがAは笑って許しました。
担任は、心の広い少年だと思っていましたが、ならばなぜいじめられるのか本当に
不思議でした。ボランティア精神に溢れ、顔立ちは整っていないものの平凡普通で、
家庭環境も珍しくなく、成績も中の上。内申は勿論のこと上々であるのに。






747 名前: 本当にあった怖い名無し 2006/08/07(月) 17:44:19 ID:aDJXcab70
何かAの人格に問題があると思えない、と、担任はAについて個人的に
調査することを心に決めました。
Aの帰宅路を、Aに気付かれぬよう担任はつけました。
土手、商店街の書店、図書館…不思議なところはいまのところ見られない。
唯一の違和感といえば常々感じていたことだが、Aが独りでいるときも笑顔を浮かべていることだ。
角をまがるたびみえる横顔が笑っている。
やがて――細い苔むした路へAは引き込まれるように入って行きました。
見失いそうになり、担任は少々小走りに追いました。

Aの足が止まりました。木の陰へ隠れ、担任が様子を伺っていると、
Aが何かを拾おうという様子で屈みました。
ゆっくりと回り込んで、Aの手元の見える位置へ行くと、Aの手には
ぼろぼろの少女趣味な人形が握られていました。
Aは徐に鞄から何か小さな布を取り出して、人形のぼろぼろの服を脱がせはじめました。
どうやら、布はAが裁縫で繕った人形の服らしく、多少不恰好ではあるけれども
しっかりと人形のからだにおさまりました。Aは満足そうに頷きました。
担任は背筋にうっすらと寒気を感じましたが、やはりAは気心の優しい男だと
自らに言い聞かせました。
そうしていると、Aがこちらに歩いてきました。担任は戦いて、見つかった!と
ばつのわるい顔をし、自ら出てゆきました。

748 名前: 本当にあった怖い名無し 2006/08/07(月) 17:47:11 ID:aDJXcab70
「Aすまん、お前をつけていたんだ、おまえのことが心配で。」
しかし、Aは担任など目に入っていないのか、脇を通り過ぎました。
そうして、人形に話しかけ始めました。
「もう足も古くなっちゃったね、とりかえなくちゃ。やっぱりつくりものの皮膚じゃ
いやだよねぇ、人間の皮膚じゃないと、ふしぜんだもんね。大丈夫、
ボクが今度病院にお願いして、人間の皮膚をもらってきてあげるから。大丈夫だよ。
うん、ぼくね、昨日きみにあったときに恋したんだ。こんな気持ちはじめてなんだ。
ぼくはかならずやりとげるよ。
こんなところに一日も放っておいてごめんね、さあかえろう、かえってお風呂に入ろう…」

担任は、謎がとけたような思いがした。Aはもとより人間など相手にしていないのだ。
そういえば家庭訪問の折、一つ不審な点を家族より耳にしたのを思い出した。

「 うちの子、誰とも口を利いたことがないんですよ。ええ、うちの誰とも」