968 名前: ① 2006/08/02(水) 13:30:18 ID:jFmpf9Nx0
この話はアルバイトを通して親しくなった森脇さんという人が、休憩室で時間を潰していた時に、
私に話してくれたお話なんです。
普段はひょうひょうとして、人を笑わせたりおもしろい話をする森脇さんなんですが、この日はやけにマジメな顔をして、私に話をしてくれたんです。

この森脇さんは東京の下町生まれです。
森脇さんがまだ小学校の1年生の時。
季節は夏、そろそろ夏休みが終わる頃でした。
住んでいる場所の近くに、広い空き地があったんです。
夏草が4、50センチも生い茂る、広場だったんです。
その草が生い茂る広場に、いつの間にかコンクリート製の下水管が置いてあったんです。
下水管の大きさは80センチ、長さは3メートルほど。
それが、ふたつ、空き地に置いてあった。

もともと、その空き地は子供の遊び場だったんです。
あらたに下水管があったもんだから、子供には絶好の遊び場になったんです。
その中に入ったり、上に乗ってジャンケンしたり、落としっこして遊んだんですね。
その日の夕方、いつものように森脇君が遊びに行ったんです。
すると、ふたつある下水管の中のひとつに、カッちゃんという森脇君の友達がひとりでいたんです。
その中に丸くなって、膝を抱えて座っている。
森脇君は、
「あっ、カッちゃん来てたんだ」
そう言って自分も一緒に中に入ったんです。
下水管の中は狭いけど、小さな子供ですから、簡単に入れて一緒に座れたんですね。


969 名前: ② 2006/08/02(水) 13:30:52 ID:jFmpf9Nx0
でも……
なんとなくカッちゃんは元気がない。
いつもはすごく活発で、暴れ回っている元気者のカッちゃんが、
なぜだかその日は、やけに暗いムードを漂わせて異様に静かなんです。
森脇君がいくら話しかけても、ほとんど返事もしないで暗い顔をして、
膝頭を抱えたままうつむいているんです。
森脇君は、
『なんか今日は変だな?』
そう思って話しかけるのをやめたんです。

下水管の中にいると、かなり暗いんです。
暗い空間から外を見ると、丸い世界が切り取られたように見えるだけです。
外はもう夕日が見えて、次第に暗くなる時刻です。
日が暮れてくるから、森脇君は家に帰りたくなったんですね。
でも、元気のないカッちゃんが気になるから、帰るに帰れない。

そのとき……
無言のまま、うつむいていたカッちゃんが、突然に顔を上げたんです。
ビクッ、と痙攣したのがわかったんです。
そして森脇君のほうを恐ろしそうな顔で見ている。

ギクッ、としたんです。


970 名前: ③ 2006/08/02(水) 13:31:27 ID:jFmpf9Nx0
こんな恐ろしそうな、怯えた顔をしているカッちゃんの顔を見るのは、初めてだったんです。
でもよく見ると、カッちゃんは自分を見ているのではない、って気が付いたんです。
カッちゃんは自分の向こう側を見ていた。

「どうしたの?」
森脇君も反対側のほうを見たんです。
今度は森脇君が、ビクッ、と恐怖の顔になった…。

その丸い下水管の外。
丸く見える空間に、逆さになった女の顔があった。
上から顔を逆さにして、こちらを覗いていた。
顔は暗くてよく見えないが、長い髪の毛を垂らしている。
ふたつの目だけが光って見える。
その長い髪が風にそよいで、ユラユラと動いている。

森脇君は凍りついてしまった。
でも、逃げ出すことも出来ないから、そのまま怯えたまま、逆さになった女を見ていた。
すると下水管の中で、女の声が響き渡った。

「見つけたよ………」

その声に、森脇君の背筋が凍りついた。

今まで身動きもしなかったカッちゃんが、
「ウワーッ!」
突然叫んで、下水管の反対側から逃げ出した。
森脇君も逃げ出したいけど、自分のほうには女の顔がある。
逃げ出したくてもそっちには逃げられない。
カッちゃんが逃げ出したほうへ、森脇君も慌てて四つん這いになって逃げた。
「ギャーッ!」
叫びながら下水管を抜け出して、一目散に逃げ出したんです。


971 名前: ④ 2006/08/02(水) 13:35:55 ID:jFmpf9Nx0
下水管を出たら、カッちゃんは凄い勢いで夏草の生い茂る草むらを
“バサバサッ!”
と、かき分けて逃げて行く。
森脇君も必死でカッちゃんの後を追いかけていったんだけど、とても追いつけない。
「カッちゃーん、待ってぇーっ!」
叫んでもカッちゃんは止まってくれない。

すると自分の後ろから、女が髪の毛を振り乱して凄い勢いで、
“ザザーッ!”
草音を立てて後からドンドンと迫ってくる。
もう、怖くて仕方がない森脇君。

「カッちゃん、助けてーっ!」

泣き叫びながら逃げる。
でも、森脇君の背後には、女が髪を振り乱してドンドン迫ってきている。
泣きながら走っている森脇君は、
『もうだめだぁ』って思った
幸運にもその時大声にきづいたパトロール中のお回りさんがきてくれて
森脇君は泣きじゃくりながら抱きついた

恐る恐る森脇君は後ろを振り返った、
でももう何もいなかったそうです………